局所療法に偏重する日本褥瘡学会を批判する(Ⅱ)

日付: 2018年2月2日

 褥瘡は皮膚の脆弱性により発症する
~褥瘡の治療.予防には皮膚の脆弱性改善の全身療法と皮膚の保護.維持(局所処置.局所療法)とが必要~

仰臥したら必ず褥瘡が発症するものではない。しかし、褥瘡が発症した時、適切な局所処置.局所療法で容易に治癒する症例と難治の症例があることは何方も認める所である。
健常な皮膚でも、切創,刺創、挫創等の超過酷な外力による皮膚の破綻は論外としても、種々の健常さ、脆弱さの皮膚に、種々の程度の慢性的な外力による潰瘍の発症がある。

1)棘爪(巻き爪)の潰瘍は、殆んどが健常な皮膚に棘爪による慢性的外力で発症する潰瘍であり、その原因の棘爪の適切な処置のみで、潰瘍が容易に治癒する。
2)健康なアスリートの義足による潰瘍は、殆んどの場合義足との適切な接続部の管理で、過酷な外力を除くことが出来れば、潰瘍は発症しなくなる。
何れも健常な皮膚であるから、過酷な局所の状況が除去されれば、皮膚は自然に治癒して行く。
3)動脈系の閉塞による循環障害の場合は、その循環障害の程度や状況に応じて、組織の壊死.潰瘍を生じ難治の場合から、手厚い局所の保護.維持管理により、皮膚に傷をつけなければ潰瘍が発症しないもの、より皮膚の脆弱性の軽いものまで種々ある。血行障害では種々の程度の皮膚の脆弱性が存在し、血行の再建など原因の除去が必要の場合もある。

4)糖尿病性壊疽は糖尿病の重症レベルや期間や経過等々の合わさった結果ではあるが、その壊疽の多くは小さな小さな外力による外傷を発端として発症し、その多くは考え得る種々の局所療法のみでは、容易には治癒せず、糖尿病の全身管理の全身療法と共に局所療法を慎重に進めなければならない。糖尿病性代謝異常状態の全身管理は容易なことでなく、さらに、糖尿病壊疽の局所療法はまだ適切な方法も定かとは言い難い。その発症.難治化の詳細については、まだまだ不明なことだらけではあるが、糖尿病による代謝異常、特に、血管内皮細胞の機能障害など考えられている。

0)翻って、褥瘡の潰瘍発症と難治化である。
進行した巨大な褥瘡での組織が溶ける様な潰瘍壁の状態は、潰瘍壁が溶ける様に巨大化した糖尿病性壊疽の代謝異常の創面状態と共に、創傷治癒傾向の明らかな直腸切断術後の組織欠損面とは全く異なった創面を示す。しかし、大部分の褥瘡では、表皮の易発赤性や紫色化、水疱形成や易剝皮化やビラン形成、さらに進み、真皮や皮下組織の浅い潰瘍形成から深部の壊死.潰瘍形成等々、一般の不良な創傷治癒の過程との連続性を示している。

糖尿病性壊疽の代謝異常は置くとしても、褥瘡では一般創傷治癒の全身的な何らかの代謝異常による種々のレベルの皮膚の脆弱性が存在することを多くの方々が予測していた。
ただ、日本褥瘡学会ではこれまで、局所療法に偏り、全身療法では、その思考が蛋白質やエネルギー低栄養状態等々の一般レベルに留まり、皮膚の健常な生成.維持等の創傷治癒過程の代謝レベルにまで至らなかったようである。

小生等は 2002年に亜鉛の多彩な欠乏症の存在の発見以来、【亜鉛は多くの酵素の活性に関与し、褥瘡は典型的な亜鉛欠乏症の一つで、亜鉛補充の全身療法と局所療法が必要】と主張してきた。しかし、日本褥瘡学会では、2012年の褥瘡予防. 管理ガイドライン(第3版)でも、発症後全身管理の項で、亜鉛、アルギニン、アスコルビン酸などが欠乏しないように補給してもよい.で、しかも、現在にいたるまでその推奨度C1レベルに留まっている。つまり、生命に必須な微量元素亜鉛の多彩な生体内機能については、2018年の現在に至るまで、日本褥瘡学会では考慮した方が殆どいないといってもよい鎖国状態にあるようである。

日本褥瘡学会は、皮膚の脆弱性予防の全身療法へと大きく視野を広げる必要がある。

【亜鉛補充の全身療法及び維持療法と適切な軽度の局所療法により褥瘡治癒と予防が可能である。】
まずは、安価で、安全且つ容易な亜鉛補充療法と貴学会が得意な局所療法を併用することを始めていただきたいと思う。

          東御市立みまき温泉診療所 顧問 倉澤 隆平 2018.02.02