局所療法に偏重する日本褥瘡学会を批判する(Ⅲ)

日付: 2018年2月15日

 2012年当時の亜鉛補充療法(全身療法)による褥瘡治癒症例の1経過

 

20120507
97歳 女性。午後の初診。仙骨部の2ヶの比較的浅い潰瘍の褥瘡と右腰部の表面に発赤を示す疼痛ある深部のしこり(褥瘡)。
典型的褥瘡で、午後の初診のため血清亜鉛値測定せず。
プロマック(75)2錠朝夕分2の処方をする。


20120507

97歳 女性。午後の初診。仙骨部の2ヶの比較的浅い潰瘍の褥瘡と右腰部の表面に発赤を示す疼痛ある深部のしこり(褥瘡)。
褥瘡で、午後の初診のため血清亜鉛値測定せずプロマック(75)2錠朝夕分2処方。
20120528
仙骨部の浅い潰瘍は殆ど治癒。腰部の深部の褥瘡は表面中心に黒化と周辺に発赤を伴う。亜鉛補充療法後、血清亜鉛値の上昇大きい時期ではあるが、Zn:96と比較的高値。
20120616
腰部の褥瘡は表面の中心に黒化壊死と深部の壊死層の感染が進展して、
10~20cmの広範な発赤を伴う。同部の切開排膿と壊死物質のデブリを行う。
20120618
デブリ2日後で浸出液はそれなりに多いが、切開創縁はかなりに締まって限局している。

 


20120625
デブリ10日後であるが、褥瘡底部に壊死物質が少量残存、浸出液も少量。
06.20のZn:152
20120813
デブリ約2ヶ月であるが、褥瘡の収縮は進んでもう殆ど治癒。Zn:148 。

 


20120827
細い小さな瘻孔のみ。

 

<コメント>
初診時:午後の受診。97歳の超高齢の元気のない女性患者。
右腰部深部の褥瘡(しこり)の痛みと仙骨部の真皮層までの褥瘡を主訴に来院。
他医で セロクラール、セルベックス、シグマート、ユベラN、ミオナール、メチコバール、アシノン、カマ、アムロジン、クラリチン等などの処方をされている。Alb2.9~2.6 Hb:10.6~9.8と一般的な栄養状態も不良と言える。 午後の受診であり、褥瘡でほぼ間違いなく亜鉛欠乏によるものであるので、血清亜鉛値は測定せず。標準的亜鉛補充療法(プロマック2錠;朝夕分服)を直ぐ開始した。
一週後の再診時、右腰部の疼痛は直ぐ軽快し、食欲も出て、少なくとも、褥瘡の急速な進展がないので、このままの処置で良いものと判断する。
二週後受診時。仙骨部の褥瘡は軽快しつつあるが、右腰部の褥瘡は中心部の壊死と感染が生じてきているので、補充療法開始一ヶ月の血清亜鉛値測定をし、念のためプロマック二錠:一回投与に変更した。血清亜鉛値は後日に96μg/dlと判明、特別投与法を変更する必要はなかったが、吸収障害が考えられる症例では、総投与量を変えず投与法の変更で済むことが多い。中には三錠;一回投与になることもあるが、四錠(倍量投与)が必要なことは殆どない。

壊死物質、異物や膿は切開排膿除去しなければ成らないのは、一般の外科の創傷治癒と同じで、本症例も同様である。しかし亜鉛補充療法によって、褥瘡に特有の表皮・真皮・皮下組織の皮膚を構成する三組織の脆弱性・崩壊がなく、健常の皮膚の生成・維持が行われていることにより、褥瘡に特有の厳重な局所療法をしなくとも、また、HbやAlbなどの一般的な栄養状態の改善がなくとも、褥瘡は治って行くことを示している。

 

本症例は2012.05に、他医療機関の多剤服用在宅療養中の高齢者(97歳)に発症した表皮.真皮層の浅い褥瘡と皮下組織深部に発症した典型的な褥瘡である。亜鉛補充療法の全身療法と比較的軽度の局所療法で(在宅療法.訪問看護。外来受診にて)治癒した症例である。
最近では、当診療所の診療圏では、多彩な亜鉛欠乏症例への早期の亜鉛補充療法が進んでいるためか?往時の悲惨な褥瘡進行症例がほとんどないが、日本褥瘡学会のポスターセッションでは、かなり悲惨な症例も散見される。亜鉛補充の全身療法がなかなか理解されなかった10数年前からの経過を追って、症例を上げつつ、局所療法に偏重する日本褥瘡学会批判を展開させていただこう。

尚、亜鉛とキレートを作成し易い多くの薬剤の存在とその確率の高まる異様な多剤処方の傾向が現在の医療界に存在すること、医師に警告したい!!

東御市立みまき温泉診療所 顧問 倉澤 隆平