亜鉛欠乏症の診断・診療指針2018(案)

日付: 2018年7月1日

<はじめに>

【MIMAKI Data】、
2002年秋、多数で、多彩な亜鉛欠乏症患者の存在に気が付いて以来、その第一例患者から2018年の現在まで、優に1,000名を超える亜鉛欠乏症疑い患者を一例一例、(往時の大学ノートに換え)エクセルで入力管理してきた。(MIMAKI Dataと名付ける)
                                        
ごく初期の症例を除いて、亜鉛欠乏症の診断は、現在の診断・診療指針とほぼ同じく、①まず疑い、②初診時血清亜鉛濃度の測定後、③可能性が強ければ亜鉛補充療法の試行を開始。④血清亜鉛値等の初期の特徴的推移と臨床症状の変化とも含めて、総合的に判断し、⑤診断の確定・治療の継続及び完了や経過観察の経験を積み重ねて来た。さらに再発予防の亜鉛補充の維持療法を含め、亜鉛欠乏症を疑ったほぼ総ての患者の追跡の記録である。
                                        
この1,000名余の疑い患者群の中には、臨床医療の場での日々の症例の集積であるから、亜鉛欠乏症の可能性の低い者、初診か再診のごく短期の受診のみで診断不可能であった者、患者の状態や諸般の事情で非医療であった者なども居り、2018年5月末、本論文を機に検討したところ、臨床症状の経過、血清亜鉛値等のデータの揃った者の現在までの集積は620名余を数えた。亜鉛欠乏症は多彩な症状・疾患の中に、単一の症状・疾患のみの症例もあるが、多くは何らかの症状・疾患を同時的に、時には、異時的に発症することも多い。 多くの患者の中には、維持療法等の継続なしでは、再三再四、同一の症状や他の症状・疾患を発症し、この20年弱の集積の中には初期の口内炎・口角炎、食欲不振・味覚障害から、舌痛等の舌・口腔咽頭症状、晩年に掻痒症、表皮内出血や水疱、皮膚菲薄の発症、最後は褥瘡の発症とサイクルヒット様の病歴を示す者もいる。620名余の患者を、時々の別々の症例として、積算すればキット1,000症例をはるかに超えていることになる。
血清亜鉛値の測定は、この約15年間で、キット5,000件を超えていることであろう。
                                        
KITAMIMAKI Studyはじめ長野県での総計4,000名余の血清亜鉛濃度測定の疫学調査をも合わせ、約10,000件弱の血清亜鉛濃度の測定の経験とその結果の分析をも加えて、さらに、MIMAMI Dataの約1,000症例の経験を踏まえて、明かになったこと、判ってきたこと、推測されること、仮説として考えること等、出来るだけ表現を明確にし、書くこととする。
                                        
【亜鉛欠乏症と血清亜鉛値】
                                        
亜鉛は生命に必須な元素で、生命反応の場で精巧に制御されていると考えられている。
しかし、血清亜鉛濃度は、(株)SRLの基準値65~110μg/dl で示されるごとく、個々人にそれぞれ至適な血清亜鉛濃度があり、±2σでも実に幅広い分布を示している。臨床の現場で、血清亜鉛濃度を実際に測定してみると、これだけ大きなバラツキの上に、それぞれ個々人に多少の短期的、長期的な揺らぎがあるのは当然としても、午前から午後にかけてそれぞれ個々人では異なるが、平均で20μg/dl にも及ぶ顕著な日内変動がある。さらに急性の疾患や手術等のストレスでも、一時的に血清亜鉛濃度の大きな変動がある。この様な血清亜鉛値の変動は生理的にどの様な意味があり、その時、亜鉛はどこにどの様に移動しているのかさえも全く不明である。しかし、キッと生命・生体反応の現場では、血清亜鉛濃度の変化とは異なった精巧で緻密なグレードでの制御がなされているものと考える。
                                        
しかもその上に、慢性状態である亜鉛欠乏時の生命・生体反応の場の組織濃度がどの様に制御されているのかさえも全く判かっていない現在、この様に変動しやすい血清亜鉛値の実測定値をもととした「低亜鉛血症の治療薬」とはどんな理論的根拠を持つものなのか、筆者は疑問を感じざるを得ない。少なくとも、「低酸素血症」や「低Ca血症」との疾患の酸素やカルシウムと同じレベルでの「低亜鉛血症」という病名の存在は信じられない。
                                        
『絶対値ではなく、個々人の血清亜鉛値の変動が亜鉛欠乏症の診断の指標となる。』
約10年余前には亜鉛欠乏症と血清亜鉛値の乖離が問題となっていた。いわゆる基準値は65~110μg/dl<(株)SRL>とされ、当時、典型的な亜鉛欠乏症とされていた味覚障害も、確かに、65μg/dl 以下に多くの症例があるが、基準値内にも多くの症例があり、時には、基準値を超えた欠乏症例さえもある。しかもその多くに亜鉛補充療法の効果が認められるとして、潜在性亜鉛欠乏の語が囁かれてもいた。日本微量元素学会ではシンポジウム等が開催され、苦肉の策で『健常者血清亜鉛濃度の下限値』を編み出し、諸般の事情を勘案して、臨床的には“日本人の正常血清亜鉛濃度の下限値を80μg/dl に統一して設定すべき”と社会に提案したが、理論根拠が納得されず。社会的に下限値の問題はその後も燻り続けた。
                                        
『統計的基準値の概念』と『基準値は正常値であるとのウッカリ間違い』と、さらには、『欠乏症であるから血清亜鉛値は基準値よりも低値のはず。』との思考の混乱の結果であり、そのデジタル思考の混乱が現在に至るも残っている。血清亜鉛値は特殊な生体値の様にウッカリと考えているが、『同じ民族で、特別の制限を受けない普通の食事のA地域と、何らかの理由で、カロリーの制限を受けざるを得ないB地域の住民の体重に置き換えて見れば明らかであろう。以下、詳細は略する。
                                        
『生体検査値はアナログ的存在である。その表記がデジタル的であっても、常に、思考はアナログである必要がある。デジタル思考が少なくとも亜鉛欠乏症の診断・診療に如何に誤りを犯すか!!【亜鉛欠乏症の診療指針2016】と比較・検討を頂ければ幸いである。』
                                        

<診断・診療指針>

【亜鉛欠乏症の診断・診療指針2018(案)】
【Ⅰ】多彩な症状・疾患および既往・経過などから、まず、亜鉛欠乏症の存在を疑う。
【Ⅱ】初診時の血清亜鉛濃度等の測定を行う。
【Ⅲ】血清亜鉛値より、もし亜鉛欠乏症とすれば、また、もし非亜鉛欠乏症とすれば、
それぞれ凡その確率がどの程度かを推定する。

   亜鉛欠乏症者群の血清亜鉛値は 健常者(非亜鉛欠乏症者)群の値より平均値で
   25μg/dlほど低値にずれて健常者群とほぼ類似の分布曲線となる。
【Ⅳ】亜鉛欠乏症の可能性が高ければ、標準の亜鉛補充療法の試行を開始する。
【Ⅴ】亜鉛補充療法による臨床症状の変化、および血清亜鉛値などの変動・推移を
(特に、初期の)詳細に追跡し、総合的に診断する。

                                                                                

<説明>
【Ⅰ】多彩な症状・疾患および既往・経過などから、まず、亜鉛欠乏症の存在を疑う。
味覚障害、食欲不振、舌痛症や舌・口腔内違和感、褥瘡や老人性皮膚掻痒症等の種々な皮膚症状・皮膚疾患、その他未知を含め多彩な症状・疾患の存在、およびその既往・経過から疑う。しかし、これ等の多くの症状・疾患は、また他の原因からの発症も考えられる一般的なものでもあるので、当然、症状・疾患のみで亜鉛欠乏症との診断はできない。
しかし、典型的な亜鉛欠乏症の症状・疾患が複数併発していれば、その確率は高まるので、潜在症状を含めた詳細な現症・既往の確認・問診が大切である。
【多彩な亜鉛欠乏症の症状と疾患】詳細論文は後日順次改めて投稿。

                                        

【Ⅱ】初診時の血清亜鉛濃度等の測定を行う。
非亜鉛欠乏者には個々に至適な血清亜鉛濃度(範囲)があり、欠乏症時には血清亜鉛値は非亜鉛欠乏症時よりも低下しているのは確かなので、欠乏症疑いの初診時血清亜鉛濃度の測定をする。尚、顕著な日内変動があるので、原則として午前中の採血とする。採決後は出来るだけ速やかな血清分離等の処理を行うものとする。早朝空腹時採血の説もあるが、亜鉛欠乏症の臨床は殆んどが外来診療で入院医療ではないから、非現実的である。また、現時点では、早朝空腹時の実質的必然性はない。尚、個々の症例を同一条件下で追跡する意味では、午後の採血での追跡は可能で、否定する者でない。。
                                        
尚、亜鉛酵素であるAl-P値の測定は一部の欠乏症症状・疾患では確かに意義があるが、総ての欠乏症に共通して関わるものでない。現在は、まだ診断指針に含めるには充分のDataがあると言えず、アイソザイムなども含めたさらなる研究・追跡が必要である。
【亜鉛欠乏症と血清亜鉛値】詳細論文は改めて投稿。

                                        

【Ⅲ】血清亜鉛値より、もし亜鉛欠乏症とすれば、また非亜鉛欠乏症とすれば、それぞれ凡その確率がどの程度かを推定する。

   図 亜鉛欠乏症者群と健常者(非亜鉛欠乏症者)群の分布曲線

                                        

 図のごとく、健常者群は65~110μg/dlの間にその95%がA曲線のごとく分布し、同じく、亜鉛欠乏症者群は36~89μg/dl間にその95%がB曲線のごとく分布する。図から65~89μg/dl間では、両者の多くが混ざり合っているので、亜鉛欠乏症と血清亜鉛値の絶対値のみでは診断できない。日常臨床の現実感をよく裏づけている。それでも、65μg/dl以下では、健常者は2.5%以下の確率となり、欠乏症者は50%以上の確率であることを統計学的に示している。カットオフ値を80μg/dlとすると、欠乏症者の約10%がそれ以上の血清亜鉛値でも存在し、健常者の約25%がそれ以下の値にも存在する確率になるとアナログ的に大まかに判断することが出来る。
 3σをとれば、確率的には、極ごく少数でも100μg/dlを超える欠乏症者も存在することと成り、臨床の現実と矛盾しない。ただ、最近増加する多剤服用者の症例については別に述べる。
 血清亜鉛値の絶対値では亜鉛欠乏症の診断を確定できないが、確率的に、その可能性の程度を推測して、さらに、症状と合わせて、確診の確率の高さを推測することが出来る。
注:いわゆる健常者には、厳密には、潜在的亜鉛欠乏者(予備力による)が含まれる。
【健常者(非亜鉛欠乏症者)群と亜鉛欠乏症者群の基準値】詳細論文は改めて投稿。

                                        

【Ⅳ】亜鉛欠乏症の可能性が高ければ、標準の亜鉛補充療法の試行を開始する。
標準の亜鉛補充療法は亜鉛含有胃潰瘍薬ポラプレジンク150mg(Zn:34mg)分2を原則として開始する。亜鉛欠乏症は欠乏症であるから、多くの欠乏症状は簡単で安価、且つ安全な亜鉛補充療法で容易に軽快・治癒せしめ得るので、治療を試行しつつ診断を確認する。
しかし、中には、①単純な亜鉛欠乏のみでないもの、キレート作用のある薬剤等など、特に多剤服用例など含め論理的亜鉛補充療法を施行する必要のある症例もあり、②最近の<低亜鉛欠乏症?の保険適応薬ノベルジン?>のことなど改めるべき大きな問題もある。
【亜鉛補充療法と治療薬】ノベルジンを含めての論文は改めて投稿。

                                        

【Ⅴ】亜鉛補充療法による臨床症状の変化、および血清亜鉛値などの変動・推移を詳細に追跡し、総合的に診断する。

1)亜鉛欠乏の症例では、亜鉛補充療法開始により血清亜鉛値の変化は、多くの症例で、補充療法開始約1ケ月前後に大きな上昇を示し、その後の1ケ月前後で初診時血清亜鉛値付近に低下し、その後徐々に徐々に上昇して平衡に達する傾向がある。ただ、その様な典型的な変動を示さず、燻ったり、予測以上の大きな数値や変動を呈する症例があり、まだ十分明らかでないが多剤服用症例等に多い傾向があり、検討が必要である。
2)亜鉛補充療法による効果の発現はそれぞれの欠乏症状・疾患により、翌日にも発現する極短期のものから、数週、数か月から、年余の長期を要するものまで様々である。
治療初期には、翌日にも劇的に回復することもある食欲や比較的早期に効果の発現することもある掻痒や舌痛の消失等の症状や潜在的症状・疾患の変化に注意する必要がある。
【亜鉛補充療法と血清亜鉛値等の動き】
【亜鉛補充療法による効果の発現】
【多剤服用症例と論理的亜鉛補充療法】詳細論文は改めて投稿。
                                        
主論文をまず提示し、複数の詳細追加論文は追ってシリーズとして、
【亜鉛欠乏症の第二HPのトピックス】上に掲載します。
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倉澤 隆平