血清亜鉛値は個々人に 固有のおよその値がある。 その固有の血清亜鉛値は 生物学的基準(値)範囲に 正規分布している。

日付: 2020年4月21日

血清亜鉛値がヒトの体内のどの様な状態を表すものか?定かには不明であり、亜鉛欠乏症の臨床は、まだまだ、群盲象を撫す状態であること否定できない。
組織(酵素系や情報伝達など)の反応の場では、キッと血清亜鉛濃度程の大きな濃度差がないであろうと推測されるが、血清亜鉛値は【基準値】65~110㎍/dlで、標準偏差11.2の大きなばらつきがある。血清亜鉛(値)濃度と組織濃度との落差が、生体内で、如何に制御されているのかを含めて、さらなる研究が求めえられる。
 
一方、血清亜鉛値の疫学的、臨床的測定の積み重ねから、血清亜鉛値の生物学的意義や亜鉛欠乏との関係等々その知見は続々と増加しつつある。
しかしまた、生物であるヒトと生命に必須な元素亜鉛の生物学的な関係、及びその評価が正しく周知されていない現実もあり、加えて、科学的に根拠薄弱な、恣意的、且つ生物学的意義を無視した血清亜鉛の(新)基準値と称する数値とデジタル思考の診断・診療指針が世に拡散しており、現在はもちろん、将来の亜鉛に関する臨床・保健医療にも悔恨を生ずるものと筆者は危惧している。
 
そこで、臨床と基礎に限らず、『生物としてのヒトと元素亜鉛の生物学的関係について関わる』全ての方々に、各自の自験例の積み重ねの中から、下記に上げる二点の仮説を実証していただきたいと考え、本論文を提示しました。
私共にとっては、KITAMIMAKI Studyはじめとしての長野県の三疫学調査に、臨床のMIMAKI Data等などの症例の積み重ねから自明のことと考えていますが、社会ではなんとなく不明確である?二点を仮説として提示しました。

近年、生体値である臨床検査値は原則として生物学的基準(値)範囲をもって基準値と表現し、一部は少数、臨床判断値のこともあるとのこと、異論のないことと思う。
ISO15189の定義による生物学的基準範囲は【平均値±2標準偏差】で表現されることも、もちろん、何方にも異論がないことと思う。
 
【日常的経験則より】
平成26年の国民栄養調査による統計資料より、上記の計算式により計算すると
20歳男子身長 平均値:171.5 標準偏差:5.9 基準値:159.7~183.3cm  
20歳女子身長 平均値:158.1 標準偏差:5.7 基準値:146.7~169.5cmとなる。
 
現代の若者の男子、女子の平均身長とそのばらつき(標準偏差)から計算された数値であるが、視覚の記憶から見ても頷ける数値であろう。
そして、身長はこの基準値であるからと言って、個々人がどの値も取りうると考える者はいない。成長期での変化はあろうとも、各個々人が固有の身長の値を持っていること自明のことである。
 
20歳男子体重:42.6~92.6kg  
20歳女子体重:34.7~69.9kg
 
現代の若者の男女の体重の平均値及び標準偏差から計算した値である。それぞれの納得される値であろうと思う。
体重は身長に比して、それぞれに短期的、長期的な上下の変動がある生体値であり、ばらつきがより大きいが、何らかの恣意的な状態でなければ、凡その固有の値があることは、何方も、日常の経験から認めるところであろう。
 
【健診データの積み重ねより】
産業医や職場の職員の健診データを逐年で積み重ね、集団としてだけでなく、各個人の健診データを個々に追跡すると、多くの生体値は多少の変動があろうとも、個体を囲む日常一般の状態に特別の変化がない限り、驚くほど一定の数値を示す生体値が多い。イヤ、むしろその様な固有の値を示す生体値の方が多いと言ってよい。
 
だが、現在、大部分の一般人はもちろん、多くの医師達も健診データを、単発のデータとして、一応基準値内の数値かどうかに重点を置いて、判断していることが多いと言える。しかし、例えば、基準値内に存在して、ほとんど一定の固有の値を示していたHb値やAlb値の小さな変化がその後の重篤な疾病の予兆であったり、偶々人の体調の変化の始まりであったりすることは、しばしば、経験することである。
前述の体重も、生物学的基準範囲はかなり広い生体値であるが、経年的、逐年的に見ると驚くほど個々人に固有の生体値であることを示し、その変動から何らかの変化を予測することは、これまた、しばしばである。
 
【血清亜鉛値も同じ】
血清亜鉛値は、まだまだ不明なことが多く、一般的には身長、体重のごとく可視化されないが、筆者らのKITAMIMAKI StudyやMIMAKI Dataなどの10000件をはるかに超える多数の血清亜鉛値の測定と臨床経験の積み重ねより、表記の仮設は自明のことと考えているが、本論文ではその説明と検証の一助にしたいと思う。
 
血清亜鉛値は平常の条件下で、基準値内の如何なる値でも勝手に示す様な生体値ではなく、身長や体重と同様に個々人に凡その固有の値を持つ生体値であり、比較的大きな生理的変動はあるが、固有の値をもとに慢性的不足状態や補充療法時などに変動を示す値である。このことを、日本臨床栄養学会の論文執筆者や(株)SRLでは、大部分の一般人や多くの医師達が一般の臨床検査値の間違えの評価にウッカリ陥っていると同様に、血清亜鉛値についても、間違えているのでないかと筆者は危惧している。
 
①個々人が凡その固有の値を持ち、②その固有の値が生物学的基準範囲に正規分布している、この①②の仮説を、先ず、多くの関係者に、他人の書いた論文による概念的にではなく、各自の実測値と経験を積み重ねて、実証していただきたいと考える。      

1昨年 2018年7月、(株)SRLは、自社で制定し、約40年余も基準値として通用して来た血清亜鉛の基準値 65~110㎍/dlを、突然、新基準値 80~130㎍/dlに変更した。
旧基準値は1977年、(株)SRLが、日本初の血清亜鉛濃度測定を開始した時に、同社の職員162名の血清亜鉛濃度測定から、統計学的に制定したものである。その変更理由は述べられることもなく、ただ、日本臨床栄養学会の「亜鉛欠乏症の診療指針2016」の論文からの<文献値>であると言うことで、新?基準値に変更された。
 
表記スライドのごとく、新基準値と称するものは、現在、臨床検査値として世界的にも認められ、広く行き渡りつつある生物学的基準範囲でもなく、また、一部の意義のある臨床判断値でもないが、困った恣意的な目的にそって、日本臨床栄養学会の論文からの文献値の引用として、現在の医療界に蔓延るデジタル思考のもとに、インターネト上で拡散しつつある。大変に困ったことである。
 
しかし、この様な困った問題が拡散することを事実として認め、生体値である臨床検査値のこと、その基準値のこと、本来アナログである医療におけるデジタル思考との折り合いや不適切な統計学に基づくEBMのこと等などを、現在の医学・医療の大きな問題点として考える契機とすること大切であり、必要な時と筆者は考える。

表記スライドのごとく、血清亜鉛値は生理的反応、病的反応か、はたまた、その機序も、生物学的意味も定かでない種々の変動があり、その変動幅も個々人によってそれぞれ異なるなど、まだまだ分からないことばかりであるが、血清亜鉛値の変動は少しずつ判っても来た。
 
血清亜鉛値の疫学的調査も、まだ、少なく、現在は亜鉛欠乏症、乃至は亜鉛欠乏状態の治療として、臨床上の補充療法などでの血清亜鉛値の推移から推測していることが多く、筆者のデータも、大部分が欠乏状態から健常状態への移行に伴う血清亜鉛値の推移から推測しているものであることを断っておきたい。

慢性の亜鉛不足状態が継続すると、健常時の固有の血清亜鉛値より、血清亜鉛値が徐々に低下してゆくであろうことは、亜鉛補充療法時の血清亜鉛値が徐々に増加して行くと逆方向の推移として、何方にも異論がないこととであろう。
 
どの程度亜鉛不足が進行すれば亜鉛不足症状が発症するかは定かではなく、個々人によって異なるものであると考えるが、筆者のデータからは、午前中の血清亜鉛値の測定として、平均して約25㎍/dL程度血清亜鉛値が低下した状態で発症するものと考えられる。
 
健常時の固有の値から徐々に血清亜鉛値が低下して行くが、亜鉛不足はあるが症状が非発症の間を潜在的亜鉛欠乏症(または、状態)とする。一般の臨床においては、健常時の固有の血清亜鉛値が不明であるから、再発症例は別として、初診時には診断されない。(なお、<症状はあるが血清亜鉛値が60~80㎍/dL>との日本臨床栄養学会の潜在性亜鉛欠乏とは全く異なる概念<症状はあるならば、日本語としても、亜鉛欠乏症ではないかと思うのだが>である。)
 
潜在性亜鉛欠乏状態からどこで欠乏症状が発症するかは、個々人の予備力、いわゆる体調や発症の症状・疾患にもよるものと考えられ、舌痛症や口腔内違和感がしばしば、歯科治療や感冒などの体調不良で発症したり、皮膚症状があった患者やなかった患者に、臥床と共に褥瘡が急速に発症することもある。後から振り返って、潜在的亜鉛欠乏症(状態)であったとされる。
 

明かな亜鉛欠乏症の患者に亜鉛補充療法を施行すると、効果の発現、症状の軽快・治癒は、症状疾患によりそれぞれ異なるが、開始時から症状の軽快と血清亜鉛値の変動が始まる。亜鉛欠乏症であると、亜鉛補充療法初期に多くの症例で、【補充療法開始1か月で、かなりの血清亜鉛値の上昇がありは、2か月後には初期値付近に低下してから、徐々に徐々に血清亜鉛値が増加する】傾向がある。
 
その後は、徐々に徐々に血清亜鉛値は上昇し、現在の一般的補充療法(標準としている(ポラプレジンク)プロマック75 二錠/朝夕分服)では、投与を続けても、血清亜鉛値は上昇し続けずに平衡に達する。平衡に達する時期は症状・症例により、欠乏症状が軽快・治癒して後のこともあるし、逆もある。
その後さらに長期、補充療法を継続すると、平衡に達したよりも、ヤヤ低値に下降して安定する傾向がある様である。筆者はこの平衡に達した値、またはヤヤ低下して平衡に達した値がそれぞれの固有の血清亜鉛値かと考えている。
 
しかし、補充療法の薬剤の投与法、投与量によっても、その他の服用薬剤、特に多剤服用例では予測に反した変動を時々見る。この件に関しては稿を改めて述べる。

65~110㎍/dlを非亜鉛欠乏症群(健常者)の基準値と仮定すると87.5±11.2㎍/dlの赤の正規分布曲線(A)となる。
一方、亜鉛欠乏症群では、 62.1±13.1㎍/dlの青の正規分布曲線(B)となり、基準値は36~89㎍/dlとなる。
65~89㎍/dlの間では大きく健常群と欠乏症群とが重なっていることが判る。
当然、個々では異なるが、(A)曲線から25㎍/dl程度の血清亜鉛濃度低下状態で、症状が顕在化することが予測される。

【記】
ISO15189の定義に従った【基準値】では、健常者群はそれぞれ赤の正規分布曲線下に分布し、亜鉛欠乏症者群は青の正規分布曲線下に分布することになるので、65~89㎍/dlで大きく重なることが判る。
しかし、さらに、正規分布曲線の統計学的な、【68%ルール、95%ルール】を大まかにでも利用すれば、ある症状を示す患者の血清亜鉛値で、それぞれ亜鉛欠乏症について、<ある確率>と<ない確率>がわかり、亜鉛欠乏症の診断に大変に有意な情報源となる。
 
【個々人に固有の血清亜鉛値と亜鉛欠乏症症例の関係を具体的に】
本来の健常者の基準値(生物学的基準範囲) 65~110㎍/dlと筆者等の亜鉛欠乏確診症例257例からの亜鉛欠乏症群の基準値 36~89㎍/dlを具体的に使用して、この検証がキッと多くの方々の亜鉛欠乏症の現実の医療に合致して居るであろうことを示し、①、②の仮説及び本来の基準値 65~110㎍/dlの正しいことを主張する。
 
この図からの68%ルールによると、間違いなく亜鉛欠乏症と疑い欠乏症であったと確診した症例の初診時の血清亜鉛値は、キッと62.3±13.1の 49~75㎍/dlの血清亜鉛値が多く、特に、 62㎍/dl前後の値が一番多いのではないかと思う。そして、亜鉛補充療法をすると 87.2±11.2の 76~98㎍/dlあたりまで上昇することが多く、110㎍/dlやそれ以上になることはそれ程多くはないが存在する。95%ルールや極稀とは言え±3σや4σのこと、当然、考慮にいれるべきであるが、キレートのこと、多剤服用のことなども絡んできて別稿で述べる。
 
初診時血清亜鉛値がが 89、90㎍/dlを超える亜鉛欠乏症が 2~3%存在することは当然であり、また一方、60や55μg/dlであるが、どの様に問診しても異常を発見でいない症例も存在することも事実で、症例を積み重ね慎重に検討したいものである。

予告:亜鉛欠乏症と薬剤については別稿で検討したいと考えているが、予測に反する高、低の血清亜鉛値やその変動はそれほど多いものではないが。
しかし、その予測に反し、外れたこたが、むしろ何故なのか検討することが、生物であるヒトと元素亜鉛との生物学的関係を探る大きな一つの切り口になろう。
また、現在の医療上の亜鉛補充療法に使用される二つの薬剤、長期間に渡り亜鉛欠乏症に使用されて来たポラプレジンク(プロマック)と低亜鉛血症の保険適用薬として新たに追加された酢酸亜鉛(ノベルジン)についても、その処方、投与量やその吸収や押し込み効果、キレートの問題ほか多くの不明点等など、比較検討しながら述べたいと思う。