論理的亜鉛補充療法の実践(Ⅳ) ~亜鉛欠乏症の可能性の推測~

日付: 2017年4月24日

【血清亜鉛値の絶対値で、亜鉛欠乏症の診断は出来ない】

しかし、初診時の血清亜鉛値より亜鉛欠乏症の可能性のおおよその推測は可能である。

 

 

 

(Ⅲ)亜鉛欠乏症の可能性の確率を考慮する。

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測定された検査値を前にし、現在でも、大部分の医師はその検査値の【いわゆる基準値】を頭に浮かべて、単純にその検査値が基準値内に収まっていると、【いわゆる正常値】と判断して、

 

基準値内に収まっているから、問題ないでしょう。』

 

と、うっかり評価して、済ませてしまう誤りを犯している。

(種々の意味の基準値があり、やむなしの面もあるが)

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筆者も初めの頃、アナログであるヒトの血清亜鉛値をデジタルで考えるべきではないが、

正直に申して、亜鉛欠乏症の血清亜鉛値は、(株)SRLの基準値の 65~110μg/dl の最低値 65μg/dl 以下とは言わぬまでも、それでも血清亜鉛値はその近辺の値以下であろうと、うっかり、考えていた。

そして幸いなことに、気が付いた初期の数例の亜鉛欠乏症症例は、皆65μg/dl 以下の 50μg/dl レベルであったから、何の疑いもなく、亜鉛欠乏症と診断を付けていたのであるが、

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そのうちに

典型的な褥瘡症例で基準値内のかなりの高値例 も出現。

さらには

基準の最高値 110μg/dl を超える初期値の立派な褥瘡症例 も出現した。

一方では、

65μg/dl を遥かに下回るにもかかわらず、なんの亜鉛欠乏症状を示さない症例 も数々あり、

何となく不思議に思っていた。

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しかし、統計学的に、いやいや生物学的にも、よく考えてみたら

血清亜鉛値の絶対値で、亜鉛欠乏症の診断は出来ない】ことは当然のことであった。

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例えば、数値を少し20ほど下げて、体重 45kg~90kg、痩せの量を10kgと、この数値を体重に置き換えてみれば容易に気が付くであろう。

 

 

モデルや力士の特別の人もいるが、一般の日本人はこんなレベルで表せるとして、

一般に原因も無く10kg程度も体重が減少したら、どこかおかしいのでないかと考えるであろう

 

90kgの人が故なく80kgになれば、何か問題があるのでないかと考えるのが一般的である

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しかし、【体重80kgだ、まだまだ痩せろ。】と言う様な、個を考えぬデジタル的思考が、

メタボ健診をはじめ、基準値や正常値の判断に、一般的に通用していて、大変に困ったことである。

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図の赤の曲線(A)は、(株)SRLが、1980年代初頭に、原子吸光法で血清亜鉛値の測定を開始した頃に、167名の健康成人の血清亜鉛値から、統計的に制定した基準値(範囲)65~110μg/dLより、描いた正規分布曲線 87.5μg/dL±11.2である。この曲線を亜鉛非欠乏者の曲線と一応見なすとする。

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青の曲線(B)は、亜鉛欠乏症の確診症例257例の初診時血清亜鉛濃度の分布より得られた、

亜鉛欠乏症例の正規分布曲線 62.3μg/dL±13.1である(後述)。

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この曲線から青の矢印の 36~89μg/dL亜鉛欠乏症例の基準値(範囲)となり、

亜鉛欠乏症の95%が統計的にこの間に分布することとなる。

 

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この二曲線ともそれぞれ統計的なものではあるが、

例えば、2σをとれば、それぞれ6589μg/dLの間で、数多くの症例が混じり合うこととなる。

3σでは、もっと少数にはなるが、混じり合い、確率は低いが、102μg/dLの欠乏症例があっても、良いわけである。

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また、二曲線の平均値の差は、約25μg/dLである。

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個々の症例ではそれぞれ異なるのであろうが、それぞれ個々の至適濃度から、

平均約25μg/dLほど血清亜鉛濃度が低下すれば、亜鉛欠乏症が顕在化すると言っても良いのかも知れない。

 

こうして、血清亜鉛値から、それがもし欠乏症とすれば、また、非欠乏とすれば、それぞれおよそどの程度の可能性であるかを考慮して、亜鉛欠乏症の可能性が高ければ、亜鉛補充療法を開始して、次の段階へと進む

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《参考》

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図は2002年筆者等が、多数で、多彩な亜鉛欠乏症の存在に気が付いて以来、その疑い症例をエクセルで登録管理して追跡しているが、その登録例が500名に達したところで、間違なく亜鉛欠乏症で、データーの揃った確定症例257例の初診時血清亜鉛濃度の分布図である。

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グリーンの縦線いわゆる基準値の最低値 65μg/dLの、赤の縦線最高値110μg/dLを示す。

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確かに、亜鉛欠乏症例の初診時血清亜鉛値は、65μg/dL未満の低値に144名、約56%を占めているが、65μg/dL以上に113名、約44%もの症例がある。

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さらに、カットオフ値80μg/dLとすれば、それ以上に19名、7.4%も存在してることを示している。

症例数が、もう少し増えれば、まだ、多少の変動はあるものとも考えるが、それほど大きな違いはないものと思う。

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そのヒストグラムである。
Kolmgorov-Smirnovの正規性の検定 .091で、62.3μg/dL±13.1 の亜鉛欠乏症の血清亜鉛値の正規分布曲線が描ける。

一枚目の図『亜鉛欠乏症群と非亜鉛欠乏群の血清亜鉛分布曲線』の青の曲線である。

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もう少し具体的に、図 『血清亜鉛値 80μg/dLの意味するもの』で説明しておこう。

この図は、本来、血清亜鉛値のみから亜鉛欠乏症と非亜鉛欠乏症を区別するカットオフ値は、どの程度とするのが良いかとの日本微量元素学会での検討過程で作られた図である。

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カットオフ値 80μg/dLとすると、血清亜鉛値がそれ以下であれば、亜鉛欠乏症91%が正しく診断されるが、それ以上の9%は亜鉛欠乏症と診断できない。

また、健康診断で血清亜鉛値80μg/dL以下を亜鉛欠乏症とすると、非亜鉛欠乏者の1/4は含まれることを示している。

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つまり、種々の症状から疑った症例が、初診時の血清亜鉛値が80μg/dLであったとする。

もし、この症例が亜鉛欠乏症とすると、これ以上の血清亜鉛値を示す亜鉛欠乏症は約1割(9%)程はある。

もし、これが亜鉛欠乏症でないとすれば、この血清亜鉛値以下に、非亜鉛欠乏症の約1/4も存在する。

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そして下の鏡面像図と合わせ、亜鉛欠乏症の臨床の知見がもっと進んで、その症状での亜鉛欠乏症者と非亜鉛欠乏者との割合が判れば、下の図と合わせて、この症状の症例が亜鉛欠乏症である可能性の確率が判る

 

勿論、この図が出来上がるには、幾つかの仮説があり、また、潜在欠乏者は非亜鉛欠乏者に組み込まれている問題があることも承知の上で、この症状の亜鉛欠乏症であるおよその確率を推測することができる。

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兎に角、血清亜鉛値のみで単純に亜鉛欠乏症であるとか、亜鉛欠乏症でないと診断することはできない

しかし、症状と血清亜鉛値を含めて、その可能性の程度を推測できる

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低亜鉛血症?そんな疾病はない

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最近、低亜鉛血症の治療薬とか保険適用となったとの話題があるが、低亜鉛血症?とは何を意味するのか?どんな病気なのか?私には判らない。不思議な話である。

2004年、日本微量元素学会は亜鉛欠乏症についてどんな議論をしているのか?偵察に出席。

2005年、日本微量元素学会に演題を出し始めた十年以上も前のレベルの話である。

 

以上