第18回日本褥瘡学会学術集会に参加して(Ⅶ)

日付: 2017年1月6日

【どうして、亜鉛の不足が生ずるのですか?】

 

 

第18回日本褥瘡学会学術集会 1日目 第五会場(口演)優秀演題賞の亜鉛関連二題で、座長を務められた医師の質問である。


2002年、多くの、多彩な亜鉛欠乏症患者の存在に気が付いて以来、この15年間、講演会などで、しばしば、耳にした疑問の声であり、とても大切な問題点でもあるので、この『亜鉛欠乏症、褥瘡、学会』シリーズの最後に、述べておきたいと思う。


1961年、Prasadがヒトにも亜鉛欠乏症の存在を示唆する論文を出して、約半世紀。動物実験からの類推含め、ヒトの亜鉛欠乏症症状が文献的には個々に、多彩な症状が報告されてきた。

 

日本では冨田寛等の味覚障害や阪大小児外科での長期高カロリー輸液による腸性指端皮膚炎様症状が報告され、注目を集めてはいたが、未開発国やアウシュビッツの様な異常状態や医原病等などの特殊な場合を除いて、人体内にたった2から3g含まれると言う微量元素亜鉛の不足が生ずるとはとても考えられないと言うのが多くの栄養学者・医師や栄養士達の、また、国の常識でもあったし、今も常識と言ってよい

 

その証拠に、未だに日本の医療の現場では医療保険制度下で、一部の地域を除いて、亜鉛欠乏症という【傷病名、治療薬】が正式にはない現状である。

しかし、幸い実質的にはポラプレジンク言う医薬品があり、亜鉛欠乏症の治療には適切な薬剤であり、厳密には現在の医療保険制度下で使用可能である。このことについては、別稿で改めて記載することとする。

 

 

 

さて、【何故?亜鉛不足が生ずるか?】である。

成書には種々の原因が想定されている。常識的な説は、偏食や孤食や極端なダイエットなどによる栄養の偏りが原因で、一般に、普通の食事をしていれば起こらない、特殊で、稀な現象であるとのこれまでの説である。

 

しかし、本ホームページ示すごとく、この説では、多数で、多彩な症状の亜鉛欠乏症の発症の現状を説明できない。

 

さらに、KITAMIMAKI Study

(本ホームページに登載の亜鉛欠乏症に関する研究報告書 第二章 KITAKIMAKI Study P14-22、または、リンクの亜鉛欠乏症講演:KITAMIMAKI Study:JAPAN Report参照)

などの疫学調査によると

 

住民の一般成人の約30%が亜鉛不足の傾向にある。

高齢者ではより高率に亜鉛不足の傾向にある。

1976-1980年の米国での調査:NHANES Ⅱ、及び1980年代初頭制定のSRLの基準値に比較して、平均値で約10μg/dl低値である。

等など、

少なくとも1980年前後から現在までに亜鉛不足の傾向が進行した】ことが推定される。

 

 

 

では、その原因は何か?

 

きっと種々の原因の総合したものであろうが、この数十年間の社会の変化と考え合わせて、筆者は

Ⅰ) 畜産農業の変化による食糧の亜鉛含有量の減少

Ⅱ) 食品添加物や食品加工に伴う食物からの吸収量の減少

が主要なものと考えてきた。

 

しかし、散弾銃のごとき、医師の異常な処方行動の傾向や多種疾病の治療に、種々の成人病の予防等などとしての多種薬剤投与の医療傾向から、多剤服用者の増加は非常に深刻な問題で、

Ⅲ) 薬剤性の亜鉛不足、または亜鉛欠乏症

を強調しておかなければならない。多くの症例は項を改めて詳述する。

 

 

 

『亜鉛キレート形成薬剤の褥瘡治療期間に及ぼす影響』

湘南鎌倉病院・長岡和徳先生の演題は正にその一現象に鋭く気が付いたものとして、素晴らしい。微量な元素亜鉛に影響を及ぼす薬剤はキレートのみならず種々の作用があり、予想以上に多数の存在が考えられ、臨床薬剤師として、化学者として、是非是非、追及を深めていただきたいものと思う。


この症例についての詳細は別にHP上に搭載するが、明らかに不要の薬剤から疑わしい薬剤を除去し、改善した典型的な亜鉛欠乏症の皮膚症例を載せておく。