論理的亜鉛補充療法の実践(Ⅴ) ~亜鉛補充療法を試行する~

日付: 2017年5月8日

【血清亜鉛値の絶対値で、亜鉛欠乏症の診断は出来ない】

 

 

多彩な亜鉛欠乏症の症状・疾患の中にも【褥瘡】の様に、

例外を除いて、種々の要因はあろうとも亜鉛欠乏による皮膚の脆弱性が主要な要因であるもの、

舌痛症】【味覚障害】の様に、多くの症例が亜鉛欠乏によるものの可能性が高いと考えられつつあるものから、

食欲不振】【皮膚症状・皮膚疾患】【元気度の低下】等などや【疲労感】、

更に【花粉症】他などの様に、色々な原因でも発症し得る一般的な多くの症状や、

まだ原因の不明なものとされるが、可なり可能性を疑わせるもの等などもあるので、

当然【症状・疾患のみでも、亜鉛欠乏症と診断することは出来ない】。

 

 

そこで、症状と血清亜鉛値などから亜鉛欠乏症の可能性が高ければ、

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(Ⅳ)亜鉛補充療法を試行し、緻密に追跡する。

 

 

大部分の亜鉛欠乏症は欠乏症であるから、適切な論理的亜鉛補充療法で、比較的容易に軽快・治癒せしめ得る。

 

亜鉛補充療法は正に亜鉛の補充であり、薬剤そのものの薬理作用や薬効を期待するものではないから、微量な亜鉛の必要量を、副作用が少なく、安全且つ適切に、人体内に補充できればよい。

 

しかし、症例によっては長期投与の必要性のあるものも多く、亜鉛欠乏症の治療薬は安価で、且つ亜鉛のみ補充が可能な物質が望ましい。

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亜鉛補充療法の標準的処方

 

● 図のごとく、プロマック(ポラプレジンク)D錠(75)2T 朝夕分2[ Zn量:34mg ]の

 原則的処方で、殆どの亜鉛欠乏症の補充療法は可能である。

 

● しかし、原則的補充療法では効果が燻り、血清亜鉛値やAl-P値の変動も燻る場合は、

 単に亜鉛の投与総量を増量するのではなく、2T分2を 1回/日投与に用法を変更することで、

 効果が出現し、検査データも想定の動きを示す様になることがしばしばである。

 

● 中には、3T(Zn量:約50mg)1回/日を必要とする場合も少数例であるが、

● 総量4T(約70mg)投与の必要なことは、殆ど無いものと、現在は、考えている。

 

● 3T 1回/日投与でも、症状や検査データの動きが燻る場合は、現在は、多剤服用者に多いと

● 考えており、症例が亜鉛欠乏症の可能性が強い場合は、増量よりも、

● 現在服用中の薬剤の処方や投与法などの再検討をする必要があると現在は考えている。

 

 

 

<コメント>

日本では微量元素亜鉛の欠乏症は稀なものと考えられていたので、国も、製薬会社も、その治療薬が必要と考えていなかったが、幸いなことに、たまたま亜鉛含有胃潰瘍治療薬 ポラプレジンク(プロマック)が存在し、胃潰瘍薬として十分な使用経験があり、殆んど問題となる副作用がないことが知られている。

 

正に、『いわゆる55年通知』にピッタリの亜鉛欠乏に対する薬効の薬理作用が認められる。

 

また、生命に必須な亜鉛は比較的安全なミネラルで、通常治療量の経口的な投与では、中毒量に達しないことも知られている。
微量な亜鉛イオンの吸収については、腸管からの吸収に関与する亜鉛トランスポーターZIP4の腸管細胞への発現量が血中亜鉛の充足状態により変化し、吸収が制御されているという。

 

勿論、腸管内の亜鉛濃度が高い場合には濃度差で吸収されるとか、銅の吸収との競合の問題等など、臨床的に、まだはまだ十分判ってないことを注意する必要がある。

 

ただし、亜鉛とL-カルノシンとの錯体ポラプレジンクの吸収については、基礎的にも、臨床的にも十分とは言えない。

 

ポラプレジンクについては、信じられないことであるが、胃潰瘍薬として製剤化されたときは、亜鉛華軟膏の連想であろうか?腸管から吸収は殆んどされず、胃潰瘍面に付着して潰瘍への効能があるものとされ、試験のデータでは殆んど吸収がないものともされている。

 

しかし、現在では、吸収された亜鉛が胃潰瘍の創傷治癒促進効果を示したものと考えるべきで、間違ったデータを善意に解釈すれば、非亜鉛欠乏状態での投与であったため、偶然に、亜鉛の吸収の結果が出なかったのかもしれない。

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亜鉛補充療法と血清亜鉛値の推移とAl-P値の変動

 

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下の図は血清亜鉛値の推移のシェーマである。

亜鉛補充療法を施行すると亜鉛欠乏症の場合には血清亜鉛値は、図のごとく、

 

● 初診時の個々の低値から補充療法開始一ヶ月前後の時期に比較的高値に上昇する。

 

その後、

● 二ヶ月前後では初診時の近辺に戻り、その後徐々に徐々に増加して、充足されると平衡に達する。

 

その後、

● 長期には平衡時の最高の値から少し低下した値に安定する傾向がある。

 

 

上の図はAl-P値の変動(充分規則性がまだ整理されていない)

Al-P値は短期、長期の許容変動範囲は凡そ10%程度と言われている。

 

2002年に亜鉛欠乏症のことに気が付いた当時は、褥瘡患者が多かったためか?

上図のAl-P1や2の折線のごとく、一ヶ月前後からこの10%を超える上昇を示し、二ヶ月前後で、亜鉛値のごとく低下せずに上昇し続けて、平衡に達し、やや低下するパターンのものが多かった。

 

しかし、その後、実に多彩な亜鉛欠乏症症例を集積・追跡して行くと、Al-P3や4の様に殆ど変動しない症例も多くあり、その違いは症状・疾患による様でもあるが、多彩な症状・疾患が種々の組み合わせで合併する欠乏症なので、まだまだ、まとめ切れていない。
更に、アイソザイムの分析までは、研究費の関係で手をつけてない。

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<検査値の追跡>

血清亜鉛値の絶対値では亜鉛欠乏症の診断は出来ないが、

検査値の動き及びその推移を臨床症状の推移と合わせて考えると

亜鉛欠乏症の確診の可能性やその原因などいろいろなことが推測し得る

 

 

今後このシリーズの中で記載して行くが、その基本的データとして、

血清亜鉛値とAl-P値の ① 初診時、② 補充療法開始、一ヶ月前後、③ 二ヶ月前後

の測定を原則的にすることを勧める。

以後は、必要に応じて、論理的に考えて追加の検査をする。

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<コメント>

検査値の動きはまだまだ判らないことだらけである。

特に、種々の薬剤によるキレート作用やイオンとしての競合、PHの変化等などによる吸収障害や排泄、さらには、体内での錯体形成による亜鉛の不活化などの血清亜鉛値への影響がある薬剤の服用、特に、多剤服用症例の亜鉛欠乏症例の問題等など、基礎的にも、臨床医学的にも多くの問題点がある。

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