論理的亜鉛補充療法の実践(Ⅱ) ~臨床症状より疑う~

日付: 2017年3月2日

【 血清亜鉛値の絶対値で、亜鉛欠乏症の診断は出来ない 】

 

 

 

では?どうするのか!?

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(Ⅰ)臨床症状より疑う

 

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2002年秋、

多くの医師が考えているよりも、遙かに多くの、多彩な症状の亜鉛欠乏症の患者さんが存在する

ことに気が付いた。

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1961年、Prasadがヒトの亜鉛欠乏症の存在を示唆する論文を出し、その後約半世紀の間に、動物実験からの推測も含めて、文献や教科書・成書などに個々に記載された亜鉛欠乏症の症状を凡そまとめものである。

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この中で日本では、味覚障害については冨田寛先生らのご努力で、亜鉛欠乏症とよく知られていたが、その他には腸性肢端皮膚炎が遺伝性の亜鉛欠乏疾患であると皮膚科の教科書に記載されている程度で、ヒトに亜鉛欠乏が存在はするが、非常に稀なものであると医師も栄養学者も、一般的にも考えられていた。

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彩色字は、2002年以後現在までに、筆者らが実際に経験した亜鉛欠乏症の症状である。

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大きな字の褥瘡、食欲不振、味覚障害、舌痛症や舌・口腔咽頭症状などは日常一般の外来でしばしば遭遇する。

 

皮膚疾患・皮膚症状は多くの症状・疾患があるが、別に述べる。

 

これらの症状は単独で発症することもあるが、他の幾つかの欠乏症状と併発することが多く、多くの亜鉛欠乏症様症状の併発は、当然のことながら、欠乏症の可能性が高くなる。

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味覚障害 】は単独で、甘み、塩味、味がしない、旨味が判らないと訴えることもあるが、家人が料理の味がおかしい・味噌汁が塩っぱいと言い、本人が気が付かぬことも多い。

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食欲不振 】は、食欲がない、食べる気がしないなど拒食にいたる酷いものから、元来小食であると言い、他の亜鉛欠乏症状で補充療法中に食欲が出る、本人が気付かない潜在性の食欲不振もかなり多い。

兎に角、原因の定かでない食欲不振は欠乏症の可能性が高い。

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舌痛症 】は、舌尖や舌全体がぴりぴり、ひりひり痛むものから、中には口腔内全体が火傷のごとくの痛む、激しいものまである。舌痛症は、一般に単発で、粘膜に肉眼的異常所見を認めないが、しばしば、後述の口腔内症状を伴い、時に【 アフタ性口内炎、口角炎 】などを合併することもある。

殆どのアフタ性口内炎、口角炎は亜鉛欠乏症でもある。

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舌・口腔咽頭症状 】は、舌や口内が苦い、渋い、ザラザラする、ガサガサ、滑らかでない、果ては、つかえる、飲み込みにくい感じ、口内乾燥感等など、実に、多彩である。

 

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慢性の下痢、臭覚障害、貧血 】等などは稀にある。(褥瘡、皮膚症状・疾患は後述。)

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慢性疼痛 】【 慢性疲労 】の中に、経験症例は少ないが、亜鉛が関与しているものが、確かにある。

いわゆるリュウマチの痛みや原因の定かでない怠さは追跡すべきと考える。

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白色字は文献・成書に記載され、あり得ると考えられる症状であるが、一般の診療所ではなかなか確定診断できないものである。

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褥瘡 】は、終末期発症の褥瘡は別として、殆どの褥瘡は亜鉛欠乏症である。

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老人性皮膚掻痒症 】皮疹のない乾燥傾向の皮膚で掻痒があちこち移る、いわゆる老人性皮膚掻痒症の殆どは亜鉛欠乏症であり、亜鉛補充療法で軽快・治癒する。

ただし少数例では亜鉛補充療法でかえって掻痒が憎悪するものがある。

皮疹に伴う【 かゆみ・掻痒 】も、皮疹の軽快・治癒する早期に治まること多く、掻痒と亜鉛の関係は注目すべきである。

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高齢者の脆弱な皮膚 】表皮内出血、易発赤性、類天疱瘡様の水疱、軽い外力でぺろりと薄く剥皮(易剥皮性)、テカテカと光る菲薄な皮膚、容易に裂ける脆弱な皮膚は加齢の要素も否定できないが、若者の皮膚とまではならないが、かなり改善する。

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■■ 原因不明・難治とされる多くの疾患 ■■

.ステロイド局所療法が反応するとされる皮膚疾患の多くは一次的、二次的かは別にして、亜鉛欠乏症である可能性が高く、亜鉛補充療法で、軽快・治癒する傾向がある様である。

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掌蹠膿疱症 】その多くは亜鉛の欠乏単独の可能性が強いと考えているが、少数、亜鉛欠乏+α(ビタミンなど)の可能性のある症例もあるように思われる。これまでに軽快はするが、根治しない難治症例を3例程経験しており、現在その1例を追跡中である。

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手掌角化症 】【 爪の変形・軟弱化 】亜鉛欠乏によるものが多い印象である。

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尋常性乾癬 】【 アトピー性皮膚炎 】も亜鉛欠乏のみではないが、主要な原因を担っている可能性が高い。まだまだ、症例数の少ないものもあり、皮膚科症例については、多くの皮膚科医の追試を是非是非願う者である。健常な皮膚の生成・維持に関する亜鉛の役割の観点から、現在の皮膚科医療を見直す必要があるのでないかと考えている。

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腸性肢端皮膚炎 】は、教科書に記載されているが、筆者は経験したことがない。

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以上、まだまだ未知や未確定の、多彩な症状・疾患が亜鉛欠乏と関係あると考える。

 

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亜鉛欠乏症は実に多彩な症状・疾患が含まれ、しかも一般的な症状も多い。

複数の症状・疾患の併発は亜鉛欠乏症の可能性が高くなるが、気が付かないで過ぎることもある。

欠乏症を疑うには、凡そ大まかに、①②③④⑤⑥のポイントでチェックするとよい

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次回は

<(Ⅱ)血清亜鉛値等を測定し

を中心に、

血清亜鉛値とは? 血清亜鉛値測定の意味血清亜鉛値を追跡する意味 などについて

論理的亜鉛補充療法の実践(Ⅲ)を書く。

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