血清亜鉛と基準値 第18回日本亜鉛栄養治療研究会 ポスターセッション:P18

日付: 2019年7月18日

【はじめに】
昨年 2018年7月、(株)SRLをはじめ日本の多くの臨床検査所で、血清亜鉛値の旧基準値 65~110㎍/dlから新基準値 80~130㎍/dlに、突然に、変更された。旧基準値は1977年、(株)SRLが、日本初の血清亜鉛濃度測定を開始した時に、同社の職員167名の血清亜鉛濃度測定から、統計学的に制定したものである。約40年余、通用した数値の変更理由は述べられることもなく、ただ、日本臨床栄養学会の「亜鉛欠乏症の診療指針2016」の論文からの<文献値>であると言う。

(株)SRLの新基準値は【基準値】としては、論外である。大部分が健常者であるとの臨床判断値としても、問題である。
本当にこれで良いのか?第18回日本亜鉛栄養治療研究会での ポスター・セッションで発表した論文に加筆し、検討した。
詳細な論文を【亜鉛欠乏症のホームページ】のトピックス欄に掲載した。物差しの基準を変えることは、重大なこと考える。

(株)SRLが文献値として採用した、日本臨床栄養学会の論文は2010年前後の亜鉛欠乏症と血清亜鉛値の乖離問題が議論されていた頃の文献までが参考文献とされて、その後の血清亜鉛値や基準値の知見の進歩が検証されていないと考える。多くの関係者のご批判を頂きたいと思う。

旧基準値50~110㎍/dlは上下の赤の線で示した。新基準値は赤の網にて囲った領域となるのだが!!
網掛けの80~130㎍/dlを基準値と称していいのか?(株)SRLの血清亜鉛値の新基準値は何を示すのか?
検査値の評価にどの様な意味があるのか?問題である。

論文から論文を書いていると、単純な誤りに気が付かぬことがある。新基準値の問題を可視化した図である。

 
【記】
【日本臨床栄養学会論文は詳細・緻密な論文だが!!】
本論文で批判の対象として来た日本臨床栄養学会の論文『亜鉛欠乏症の診療指針 2016』と『同 2018』とを、比較検討させていただいた。現時点においては、大変緻密に詳細に纏められた論文と評価したい。ただ残念なことに、血清亜鉛と基準値に関しては、その引用文献も思考内容も、本論文で批判しているごとく、日本微量元素学会や日本亜鉛栄養治療研究会等で議論し、その知見が急速に進歩し始める前の、『血清亜鉛値は不明確で、診断や治療における適切な指標とならない』と、世界的に著名な教科書にも堂々と記載されていた、そのころのままと考える。

 
【教科書は、誤りを改めてこそ、教科書】
新しい知見・知識が急速に進歩・発展する時期に、全く誤りのない論文を書くこと不可能である。筆者の尊敬する隈部英雄先生は、結核研究所の所長室で、『今は教科書をシッカリ読み給え。だが教科書は書いた時から間違っている』『諸君は医学徒として、自分自身の目玉を信じ給え』と言われ、若き医学生にとって、医学・医療に対する忘れえぬ教えを説かれた。50年余、昔のこと。教科書は常に書き換えられて、教科書であり得ると思う。論文も同じであると筆者は思う。